エンタープライズ向けスタートアップを巡る5つの神話を論破する:Ginzamarkets清水の場合

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この正月休みに、TechCrunchのある記事が目に留まりました。
「エンタープライズ向けスタートアップを巡る5つの神話を論破する」です。
http://jp.techcrunch.com/archives/20120101five-myths-of-the-enterprise-startup/

この記事内容に共感する部分も多かったため、私も神話の論破に加担しようと思います。

当社はGinzametricsというエンタープライズSEOプラットフォームを製造/提供しており、先の記事に書かれるエンタープライズ・ソフトウェアそのものです。私は以前はVisionalistというアクセス解析のエンタープライズ・ソフトウェアを製造/提供するデジタルフォレストにおり、その前はITコンサルティング会社のアクセンチュアにいました。これまで一貫してエンタープライズ分野でビジネスをしてきた訳です。

その経験の中で、エンタープライズ分野が退屈な場所だと思ったことはなく、むしろセクシーな分野だと思っています。前職のデジタルフォレストは、リーマンショックの影響が色濃く残る2009年に、約24億円でNTTコミュニケーションズに買収されていますしね。

神話1:エンタープライズは退屈だ

あなたにとって、何をもってエキサイティングで、何をもって退屈であるか。エンタープライズが退屈かどうかは、これにつきると思います。

当社の場合、確かに世界数億人のライフスタイルを変えることはないでしょう。しかしSEOに課題を抱えるビジネスユーザーの手助けをすることができ、その結果お金を頂戴しています。We do not change the world, however we do business です。
Ginzametricsは世界35カ国で利用できるため、日本企業の海外展開の一助となる可能性があることは、私にとってはとてもエキサイティングです。今後様々な業界の様々な日本企業が海外展開に力を入れるはずです。日本の将来を考えるに、このような活動はとても有益ではないでしょうか。

別の観点ですが、エンタープライズは大企業を経験した30代、40代が一旗揚げるにはうってつけだと感じます。30代、40代は、20代のような勢いやソーシャルネイティブな肌感覚はありません。しかし、特定業界や領域の業務経験や知見、人脈や代理店網との関係性といったものは、30代、40代だからこそ得られるものだと思います。エンタープライズには、そのような資産活用が有効に働くことも多いと思います。

神話2:エンタープライズ向けソフトウェア・ビジネスはスケールしにくい

私も以前は、エンタープライズ向けソフトウェアビジネスはスケールしにくいと思っていた1人です。しかしGinzamarketsで働き始め、その考えは180度変わりました。現在当社は、アメリカと日本の正社員数は5人です。5人で世界30カ国を超える法人のお客様にGinzametricsを提供しています。
クラウド利用により世界の様々な国に提供することができる、アメリカでリリースを出すことで他の国にも取り上げて頂く可能性があるという要因ももちろんあります。しかしそれだけではありません。例えば、日本以外の国のお客様は、海外つまりアメリカの会社と契約をすることに抵抗がないようです。日本以外のお客様は、決済はクレジットカードで行うため、請求書発行や入金関連業務の作業も必要ありません。日本の常識の中にいるとこのようなことに気づかず、スケールさせるための機会を逸しているかもしれません。

マーケティングやセールスの方法も「どうやったらすばやくスケールさせることができるか?」を考える余地はまだまだあります。バイラルやフリーミアムといった新しい手法の適用はもちろん、それ以外にも自社の強みを活かす方法もあります。例えば、私の友人がCMOを務めるエンタープライズ向けの企業では、専門媒体の記者さんに変わって、その媒体の特集を企画し、記事を書き、特集インタビューのセッティングを行ったりしています。記者さんたちの参謀となることで、結果的に一気に業界シェアを伸ばしました。ちなみにFacebookやtwitterは一切やってないそうです。

神話3:企業の部門は動きが遅くて付き合いにくい

スタートアップの一つの強みは、意思決定や動きが早いことです。そのようなスタートアップから見て、大企業の動きが遅く感じるのは当たり前です。スタートアップが大企業の動きの遅さをあり得ないと感じるように、大企業にはスタートアップの適当さがあり得なく映ります。
大企業への売り込みを行いたい場合は、大企業の行動パターンやお作法に配慮した対応を取るのが最低限の礼儀ではないでしょうか。

大企業が新しいテクノロジーを採用する際に最も避けたいのは、導入が失敗であったと判断されても、それを使い続けなければならない状態に陥ることです。スタートアップとしては、この大企業が感じるリスクを下げることが礼儀だと思います。無料の試用期間を設ける、担当管理職の経費で決裁できる金額から提供する、最低契約期間をできるだけ短くする、導入のための作業や費用をできるだけ減らす。スタートアップがこのような工夫をすることで、大企業の担当者の心理的な負担は軽減されます。

また、スタートアップの伝統的巨大IT企業に対する強みがスピードである一方、ソフトウェアの安定性が弱みであることが多いです。この弱みは、大企業の人から見ると致命的欠陥に映る場合も少なくありません。当社もこの夏まではスピードを最優先させ、1日に2、3回リリースを行っており、その反面安定性に欠ける部分もありました。しかし秋口からは、エンタープライズソフトウェアとしてもう1段レベルを引き上げるべく、リリース頻度をあえて週に1、2回に引き下げ、その分安定性の担保に相当配慮しています。

神話4:MicrosoftとOracleには勝てっこない

日本の場合、大企業は保守的だから実績の乏しいスタートアップの製品は採用しない、リスクは取らない、と言われることが多いです。しかしこれは本当でしょうか。
この最も良い反証は、2007年の日本郵政グループのセールスフォースの導入です。当時はSaaSというという言葉がようやく使われ始めた頃です。セールスフォースはアメリカでは急成長中のエンタープライズ向けソフトウェア企業でしたが、日本では大企業への導入実績ゼロのドベンチャーな頃です。日本郵政の担当者の英断抜きには語れませんが、ドベンチャーのセールスフォースがオラクルにコンペ勝ちしたニュースは、IT業界に大きな影響を与えました。
当社もスタートアップであるにも関わらず、インターネット利用の先端企業である楽天市場様などにご導入頂きました。楽天市場様はSEOの課題解決のために、コンサルティング会社、システム会社、ツール会社など国内外を探され、その結果Ginzametricsを選択頂きました。要求レベルは高いですが、期待に応えるべく機能開発を進めています。

スタートアップは伝統的IT企業の動向に一喜一憂する前に、先の記事にあるとおり、ユーザーの欲する特定の要素に絞って開発を行うことが、まず何より大事だと感じます。

神話5:エンタープライズでイノベーションは起きない

GinzametricsはSEO領域のエンタープライズソフトウェアです。今さらSEOでイノベーション?と思うかもしれません。しかしこの領域は、過去5年ほど技術によるイノベーションをさぼってきた領域と考えています。
企業のSEO担当者は、自社のキーワード順位を把握し、そのキーワードによるビジネスインパクトを確認し、競合の状態を調査する、という作業を行います。このような作業を別々のソフトウェアを用いて、ほぼ手作業で、過去数年にわたり行ってきました。誰もが面倒だと感じ、自動化したいと感じているも、解決できていない課題でした。Ginzametricsはこの点を自動化しました(これ以外の提供価値ももちろんあります)。付加価値の低い繰り返し作業をIT化するという、技術によるプロセスイノベーションの基本中の基本を行っているわけです。

昨年末の日経コンピュータに「ITで世界を目指す7人の挑戦者」という特集がありました。この7人(7社)のうち、5社が実はエンタープライズ向けソフトウェアです。エンタープライズは、特定領域の特定ユーザー向けに作られるため、あまり多くの一般ユーザーの目に触れることはありません。しかし、イノベーションにより世界を狙うエンタープライズ向けのスタートアップは確実に増えています。
2012年がエンタープライズ・ソフトウェアのルネッサンスの年になる、かどうかは私にはわかりません。ただ、一般ユーザー向けサービスで新しいものがどんどん生まれるように、エンタープライズ領域でも新しいサービスが生まれて欲しいと思います。

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Categories: イーブック・調査レポート.